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貴婦人電報

貴婦人電報のバックナンバーです。

#031
すいません。ホントすいません。
二次会でカラオケ行った辺りから、ホント記憶ないんですよ。
久々に地元の友達と合ったんで、ちょっと調子ノっちゃったっていうか……。
そんな飲んだつもりも無いんですけど、ホント……。

すごい反省してます。
もうホントこんなバカな真似、二度としません。酒もやめます。インチキだとか言いませんホント。

……あの、オレ子供いるんです。
先月2歳になって……あの、俺が居ないとちょっと困るっていうか、嫁とかも、生活とかできないっていうかなんで……ホント。
ホント誰にも言いませんから。友達んち泊まってたとか言いますんで。
写真とかもホント撮ってないですから。ホントもう反省してますんで、ホント。

だから地球に帰してください……。



#032
夏の甲子園、地区予選決勝。
最終回ツーアウトながら、一打逆点のチャンスで俺は打席に立った。

ヒット1本、あとヒット1本で夢にまで見た甲子園だ。
俺なら打てる、俺ならできる……。

初球、ど真ん中のストライクに手が出ない。
息苦しく、やけに視界が狭い。
俺は情けないくらい緊張していた。

たまらず打席を外し、深呼吸。
ベンチを見ると、監督とキャプテンが見た事もないサインを送っている。
よく様子を見れば、野球そっちのけで加藤鷹談義に花が咲いているだけだ。
マネージャーのミチ子ちゃんは額をベンチの壁にこすりつけながら、恐ろしく低い声で何言か呻いている。スコアブックの裏面で一人こっくりさんをやっていたので、その影響だろうか。完全に白目だ。
皆、それぞれのやり方で時間を潰している。

唯一、ネクストサークルに控える野村だけが打ち気満々で素振りをしているものの、手に持っているのは惜しくもネギだった。

結局ヒットを打つことはできず、俺達の挑戦は終わった。

だが、皆が一丸となって夢を追いかけたこの3年間に悔いなど無い。
俺はかぶっていたホッケーマスクを外し、誇りを胸に仲間達の待つベンチへ戻った。



#033
「く、ノ、一、の3文字を組み合わせて“女”。故に女忍者をくのいちと言うのでゴザル」

ニンゾー君が我が家に居着いて1ヶ月が経った。
殿様の子孫である僕に仕えるために忍の里からやって来たと言い張るが、その辺を詮索する度に得意の忍トリビアではぐらかされてしまう。

実際なにか役に立つのかと言えば、屋根にひっかかったバドミントンの羽根を取ってくれるくらいだ。
普段は屋根裏に隠り、録画したいいともを繰り返し見ている。

来週には彼の家族もやって来るらしく、今から気が重い。



#034
「ご注文繰り返しまーす。苺ミルクパフェをおひとつ。苺ミルクパフェをおひとつ。苺ミルクパフェをおひとつ。苺ミルクパフェをおひとつ。苺ミルクパフェをおひとつ。苺ミルクパフェをおひとつ。苺ミルクパフェをおひとつ。苺ミルクパフェをおひとつ。苺ミルクパフェをおひとつ……」

敵もさるものだ。
口を出したら負けだと感じた私は、とりあえず携帯で明日の天気を確認することにした。



#035
こそばゆい風がぴゅうと村を吹き抜けた。

よよいよいよいプノンペン! よよいよいよいプノンペン!
木樽を担いだ男達のかけ声が、抜けるような秋の高空にこだまして。
ストロベリージャムの蓋を開いては閉じ、閉じては開きするのは家を守る女達の仕事。そろそろ腕の筋肉が馬鹿になる頃だろう。
子供らは輪になって丘の上。誰の発泡スチロールが固いだの丸いだの。

冬の到来を控えたこの時期、レンテプロッホの村々はいつもこんな調子だ。
僕はといえば一人小さな日なたに座り込み、教会の壁に描かれた卑猥な落書きに魅せられていた。



#036
連休明けの憂鬱な月曜。
10日前の宴会でモヒカンになった父は、トサカを剃り落とし会社へ向かった。

いつもなら玄関まで見送りに出る母が姿を見せなかったは、亭主の情けないスキンヘッドを嘆いてか、はたまた己のリーゼントを恥じてのことか。

遅刻ギリギリでバス停へ走る私にそれを確かめる余裕などなく、ただ弁髪を風になびかせるのみだ。



#037
「そろそろ、父さんの部屋も整理しないとね」

4月も半ばに差し掛かったある朝、努めて明るい口調で母が切り出した。

父は放浪癖のある人だった。
居なくなったかと思うと、半月もすれば、見たこともない外国土産を手にふらりと帰って来る。年に何度そんな事があっただろう。外野はやれそれとうるさかったが、母と私にとって、そうした父の行動はごく当たり前のものとなっていた。

そんな父がアフリカの何とかいう街で事故に巻き込まれたらしい、と知ったのは去年の暮れ。年が明けてすぐに死亡が確認された。

「あの人、きっといつか聞いたこともない外国の街でのたれ死ぬわ」

父が健在だった頃、笑いながらそんな冗談を飛ばしていた母でさえ、気持ちを切り替えるのに3ヶ月を要したわけだ。
私にとってその3ヶ月間は、急激に小さくなってゆく母の背中へ「ドッキリでした」の一言をかけられぬまま過ごす、焦りと後悔の日々だった。

父は今も隣町に借りたアパートで、私からの連絡を待っている。



#038
で、息子さんですけどね、お弁当箱にサンドイッチ入れるのは平気なのに、食パン入れたら暴れ出すってのはコレ正常なんで、もうこんなことで病院連れて来ちゃダメですよ。



#039
「そうですか……。実は私、こういう者なんですが」

背広の男は二つ折りの黒いカードケースを懐から取り出すと、こちらへ向けて中を開いて見せた。
本人に間違い無い顔写真の下には、菊の紋が刻まれた金属製のプレートが輝いている。

始めて見る本物の警察手帳に、思わず背筋を正しながら僕は言った。

「いえあの、ですから免許証か保険証以外ではレンタルの会員証は作れないんです」



#040
壇上へ設置された120インチの大型モニターには、木製の器に半分ほど盛られたポテトサラダが写し出されている。器の手前には、先端に食べカスのこびりついたフォークが置かれており、サラダが食べかけであることがわかる。

モニターの右上端にはタイマー。8分42秒、43秒、44秒………51秒を過ぎたところで、教授の野村により映像が止められた。
にわかにざわつく館内。
リモコンをマイクに持ち替えた野村が集まった有識者達に語り始めた。

「詳しくは後程、資料を交えて説明しますが、これこそ我々が長らく研究を続けてきた変態の瞬間です」

館内に渦巻く感嘆の呻き。

「おお……」

「これが……」

「食べかけのポテトサラダが……」

「食べ残しに変わる瞬間……」

左手でそれらを制し、言葉を続ける野村。

「今回得られたデータに基づき、コロッケの食べかけについても今年中に同様の映像をお見せすることができるでしょう」

壇上へ注がれる惜しみない拍手。
その光景を、最後部の席から苦々しく見つめる男がいた。
学内で野村と功を荒そう大根サラダ研究の第一人者、磯山である。

「おのれ野村、かくなるうえは……」

何事かを決意した磯山の口元が、怪しく歪んだ。



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