| #041 |
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「スマン オレ マチコチャント ツキアッテル」
高校生活最後の夏、ついに辿り着いた夢の舞台、甲子園。
1点を守る最終回のマウンドに立った俺へ、キャッチャーの野村から思わぬサインが送られて来た。
「マジっすか!!」
思わず声を上げそうになるのを慌てて堪え、チラリとベンチに視線を流す。
マネージャーのマチ子ちゃんが祈るような表情でこちらを見つめている。いや、今となっては彼女の視線の先にいるのは野村と考えるべきか。
首筋から、背中から、それまでとは違った種類の汗が滲んできた。
甲子園が終わったら、マチ子ちゃんに告白すると決めていた。
隠し事はしないと約束しあった野村にも、当然その思いを語った。
「だったら優勝して告白しなきゃな」
笑顔で肩を叩いてくれた野村はもういない。
「……イツカラ?」
震える指でサインを返す。
「チクヨセン ユウショウシタヨル コクハクサレタ……」
同点のランナーを2塁に置き、バッターは必死の形相だ。まさか自分を挟んだバッテリーがこんなサインを交換しているとは夢にも思うまい。俺は夢だと思いたい。
「モットハヤク ハナスツモリ ダッタンダケド」
「………」
「………スマン」
「………」
動揺のままに投じたボールが、ピンポン球のように弾き返されスタンドに消えて行く。
歓声と悲鳴に揺れる甲子園の真ん中で、よもやの2連敗を喫した俺の夏が、一足早く終わりを迎えた。
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| #042 |
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会社帰りの夜道、公園沿いを歩いていた私はチンピラ風の若者5、6人に囲まれ、金を要求された。すだれ頭に小柄で猫背、疲れ切った顔の私は絶好のカモだと思われたのだろう。長身の若者が私の胸ぐらを掴み上げ、他の連中はその光景をニヤニヤと笑って眺めている。
身の危険を感じた私は一か八か、幼い頃に学んだ格闘技の技を繰り出した。体の前で左腕を水平に構え、それにあてがうように、右腕を垂直に。両手の指先を綺麗に反らし、冬の夜空に響き渡る大声で私は叫んだ。
「ビーッ!!」
するとどうだ、構えた右腕の肘から先が、にわかに青白い光を帯び始め……次の瞬間、出たのだ。光線が。
私を捕まえていた若者が光の直撃を受けて倒れると、体の自由を取り戻した私は左足を上げ、地に着いた右足を軸にその場で一回転。合わせて回る光の帯が、周囲の若者を薙ぎ倒した。
勝った……。
学生時代の殴り合い、会社での出世争い、夫婦喧嘩、親子喧嘩……負けに負け続けた私が始めて掴んだ勝利。ピンチだった先程以上に胸の鼓動は高鳴り、溢れ出る涙が頬を伝う。
夜空へ向けて放たれる光線は一向に止まる気配を見せなかったが、もう不安は無かった。
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| #043 |
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学生時代、私はプロのミュージシャンを目指し、仲間達とバンドを組んでいた。
夢に向かって一直線……と言いたいところだが、問題は多々あった。中でも一番厄介だったのが、実の親父の猛反対だ。我が家は代々続くラーメン屋であり、親父も当然、私が後を継ぐものと決めつけていた。無口で無愛想、頑固職人を絵に描いたような親父は、音楽なぞ軟派の道楽と切って捨て、これっぽっちも理解を示してくれなかったのだ。
その晩も掴み合いの大喧嘩。床に着いても腹の虫が収まらなかった私は、真夜中に起き出して店の裏路地へ廻った。当時、我が家の裏手には勝手口を面する形で「ポメラニヤン」というキャバクラがあった。ポメラニヤンはなかなか流行っていたようで、夜中ともなれば勝手口の木戸の脇には、残飯だの酔っぱらいの吐瀉物だのを詰め込んだ黒いビニール袋がずんぐり置かれていたものだ。それをひとつ拝借した私は、今度は店の厨房へ忍び込み、曾祖父の代から注ぎ足し注ぎ足し使ってきた秘伝のスープの鍋へ、袋の中身をブチ撒けてやった。
後先など考えもせず、ただ親父への反発から仕出かした、まさに若気の至りというしかない行動だった。
そんな私も今では全国に400店舗を構えるラーメンチェーンのオーナーとして、朝から晩まで大忙しの日々を送っている。
人気の源、本家特濃スープの製法は門外不出だ。
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| #044 |
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無礼は承知、僕は連絡も入れずに彼女のアパートを訪ねた。
何度目の訪問になるだろう、会えない覚悟はしていたが、意外にも姿を見せた彼女の手には、赤いリボンで封されたレースの小袋が握られていた。
「これは……チョコレート? これを僕に?」
俯いてはにかむ彼女は、小さく頷き、そのまま扉を閉めようとする。
「ま、待って!」
やっと会えたこの好機を逃すわけにはいかない。手渡されたチョコレートが気持ちを加速させ、扉に手をかけざま僕は叫んだ。
「受信料払ってください!」
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| #045 |
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「マチ子さん、飯はまだかいの?」
「おじいちゃんたら、さっき食べたばっかりじゃないですか」
「ばかもーん! それがルパンだ!!」
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| #046 |
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自分刑事ガバンOPテーマ
「誰が為にガバン」
悪の魔の手が怪しく迫る
僕らの地球を守るんだ
だけどたまには足下見ろよ
今日も晩飯コンビニだ
正義のためなら命など
いらぬと叫ぶは自己陶酔
君が死んだらこの世界
消えて無くなるだけかもよ
地球はブッシュに任せとけ
我が身は己で守るんだ
そういやレタスが安かった
自分刑事ガバン
熱く燃えるぜ正義の心
悪党どもをやっつけろ
だけどたまには指差し確認
施錠もせずに出かけてた
人類守って戦って
留守中空き巣に入られた
地球を救うためならば
人が地球を汚すなら
世界のピンチはまた明日
まずは我が家を守るんだ
被害届けを出してきた
自分刑事ガバン
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| #047 |
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病院を抜け出し、僕らは岬へ辿り着いた。
「雪だ!」
弾むように駆け出した君の後ろ姿に、大粒の牡丹雪がふわりゆらりと重なり遊ぶ。
2人幸せを分かち合うこの素晴らしい時間は、あといくらも残されていない。
今にも消え行かんとする君の命の炎に向けて、僕はあらん限りの声を張り上げた。
「崖だ!」
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| #048 |
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サンタは実在する。
12年前のクリスマスの晩のことだ。この目でサンタを見てやろうと勇んでベッドに潜った私だったが、さすがに午前2時を過ぎた頃には朦朧となっていた。もういいや、と体の力を抜いたその時、奇妙な違和感に気付いた。静まり帰った室内に確かな人の気配があるのだ。薄く瞼を開
き、寝返りをうって気配の方を探る。
青白く月光射し込む窓の脇、揺らめくレースのカーテンに、重なり佇む人影ひとつ。私は一気に覚醒した。勢いよく上半身を起こし「サンタだ!」と叫ぶよりも一瞬早く、人影が言った。
「動くな、サンタだ!」
ベッドから飛び降りたいのを堪え、プレゼントをくれるのかと訪ねる。するとサンタは黙って頷き「起きている子にはプレゼントをあげない」と続けた。それを聞くや慌てて頭から布団をかぶり、どのくらい経ったろう、私はそのまま眠りに落ちていた。
そして翌朝、枕元に吊るした靴下の底には、拳大の温泉まんじゅうがひとつ入っていた。それは期待したプレゼントとは大きく違っていたが、それでもサンタに出会えたという事実は私の胸を、隣室の両親の「盗(や)られた!」という絶叫も気にならない程、一杯に満たしていた。
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| #049 |
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「兄さん、ジョンだ! ジョンが帰って来たよ!!」
庭先に出てみると、涙で顔をクシャクシャにした弟が、1匹のボーダーコリーを抱きしめていた。
痩せこけた体のあちこちに傷を負ってはいたが、それは半年前にキャンプ場ではぐれた我が家の愛犬、ジョンに間違い無かった。
騒ぎを聞きつけた両親も歓喜の輪に加わり、半年ぶりに叶った家族の一員との再開に涙する。
ちぎれんばかりに尻尾を振り、弟の顔をなめまわすジョン。
その足下には、ジョンがここまで咥えて来たのであろう、萎みきった黄色いゴム風船が落ちていた。
ジョンとはぐれたあの日、僕がフリスビーにくくり付けて放ったヘリウム風船に間違い無かった。
皆に気付かれぬよう、静かにその場を離れた僕はリビングへ向かい、カラーボックスの奥に仕舞い込まれていたバウリンガルをゴミ箱へ放り込んだ。
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| #050 |
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紅葉の、茜に染まった並木道。
ブラウンのコートに身を包んだ長身の女性が、僕の前を歩いている。微かに赤みがかった頭髪は肩の辺りで柔らかくカールし、襟の奥からはワインレッドのスカーフが顔を覗かせている。季節に溶け込むようなその後ろ姿をぼんやりと眺めていると、不意に彼女がその場にしゃがみ込んだ。履いていた靴のヒールが、何かの拍子に外れたのだ。
彼女の傍に駆け寄り、転がったヒールを拾い上げたその時、僕の心はそこらのケヤキが色褪せる程に赤く赤く燃え上がった。
郷愁の1ページとの、思いがけぬ再開。それはもう、運命と言うより無かった。
革地に秋の優しい陽光を受け、艶やかに輝くヒールの接着面には、幾つかの小さなボタンとスピーカー、それに伸縮式のアンテナが埋め込まれていた。
日常に忙殺され、夢を見なくなったのはいつからだろう。
あるいは長い長い夢から、今まさに目覚めたのかもしれない。
清々しくも鮮烈な、この胸の高鳴り。
スパイって本当にいたんだ。
その胸ポケットの万年筆の話、お茶でも飲みながらしませんか?
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