岩のように固いパンと、味気ないスープと、モノクロの夢しかない町に男がやって来たのは、冬の足音迫る10月半ばのことだった。
男の運転するトラックの荷台には、やわらかいパンと、クリーミーなスープと、楽しい夢の見れるクスリが積まれていた。
男が町で商売を始めるなり、パンとスープとクスリは飛ぶように売れた。
町の人々が商品の味をしめた所で、それらの値段は2倍になった。
それでも売れ行きは好調だったので、値段は3倍、4倍にと上がっていった。
商品の値段が10倍になった頃、パンとスープの売れ行きが悪くなった。
町の人々は、パンとスープを我慢して、クスリだけを買い求めるようになったのだ。
町に初雪が舞った12月のある日、クスリの値段は男が初めて町に現れた時の100倍になった。
パンとスープは全く売れなくなり、人々は皆一様に青白く痩せ細った顔で瞳をギラつかせながらクスリを求めた。
クスリや、クスリを買う金を巡って争いが起き始めた。
そして津々と雪の降るイブの夜のこと。
カゴに入った売り物のマッチ全部と引き換えに、クスリの最後の一粒を少女に渡すと、男は「ふふん」と笑って静まり返った町の出口を目指した。
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